
第1回の京都大学阿形清和教授に続き、大阪大学大学院医学部医学科の仲野徹教授に講演いただきました。残念ながら広大附属高校が7限目までの授業の日と重なってしまい、止む無く参加できなかった高校生も多く、78名の申込に対し50名の参加となりました。
再生医学とは?仲野教授が研究する「エピジェネティック制御」とは?
仲野教授による講演を振り返りながら学んでいきましょう。


![]()

私は学生さんにはよく、わからないことがあったら先生に聞くよりまず『広辞苑』を引きなさいと言います。その『広辞苑』によると“再生”とは「失われた生物体の一部が再び作られること」とあります。
再生のキーになるのが“幹細胞”。
この細胞は“自分自身と同じ細胞を作る能力=自己複製能”と“特定の機能をもつ細胞に分かれる能力=分化する能力”をもっています。皮膚や血液などの細胞が枯渇しないのはこの幹細胞がどんどん細胞を作ってくれるおかげです。
“再生医学”は文部科学省の定義によると「患者の体外で人工的に培養した幹細胞等あるいは幹細胞等から人工的に構築した組織を患者の体内に移植することで、損傷した臓器や組織を再生し、失われた人体機能を回復させる医学」。
つまり再生医学が発展することによって、体外で臓器を再生できればドナー不足を解消することができる。これが再生医学のキモです。
![]()
ケガや病気で傷ついたり、失ったりした器官を“再生”できるなんて、すごいことですよね。その“再生”にとってなくてはならないのが幹細胞。これがあるおかげで私たちの体は自然に、そして人工的に再生することができるんですね。最先端の「再生医学」についての講義。配られたレジュメにも難しい言葉が並びましたが参加した高校生たちは興味深々といった視線でスクリーンを見ていました。
![]()
前回の阿形教授がお話されたプラナリアは非常に再生能力が高いですが、我々の体はそれほど再生能力は高くありません。心臓や腎臓は一度細胞が壊れてしまうと再生しません。しかし血液、骨、皮膚などは元々再生能のある細胞です。こういった再生能のある細胞を試験管の中で増殖させて移植する。
今このあたりまで、できるようになっています。
血液の細胞などは名前のとおり血液を作る“造血幹細胞”からどんどん作られるのですが、この造血幹細胞の移植はすでに白血病の治療で行われるようになっています。そして、近年いちばん研究されているのは、生体内では普通再生されない神経や網膜、角膜、心筋、骨格筋、インスリン分泌細胞を試験管の中で増やせないかです。
しかしできたとしても細胞移植には移植した細胞がガン化するなどのリスクがあります。そのため、最終的には薬や遺伝子治療によって体の中で再生を促す治療ができるようになるのが理想的です。
今、再生医学が現実味を帯びてきたのは、次のような研究が進んだからです。

![]()
会場では人工的に再生した角膜を移植する手術の動画も。ちょっと怖い映像でしたが、白く曇ってしまった角膜を取り除き、シート状の角膜を移植することで、患者さんの視界が晴れた劇的な瞬間です。
ところで。
印刷で臓器をつくる、そんな研究もされているそうです。
インクジェットプリンターのインク1滴を紙に印刷する大きさが、
細胞1個を打ち付けるのに適しているらしいのです。細胞を“印刷”
して重ねていくことで、最終的に複雑な臓器を完成させる。
こんなびっくりするような研究が、印刷会社を中心に真剣に進められているのです。
このお話に運営スタッフも「へぇ~」と驚きの声をもらしていました。
![]()


幹細胞には、組織幹細胞と多能性の幹細胞があります。
先ほどお話しした造血幹細胞は組織幹細胞。生体の組織の中にあるのが組織幹細胞です。また、ここ5~10年の研究で、神経や心筋などの普通は再生しない臓器にも幹細胞は存在するようだということが分かってきました。その幹細胞を体外で増やして移植できるのではないか、これが再生医学のメインとなる考え方です。
多能性の幹細胞としては、ES細胞やiPS細胞が知られていますね。ES細胞はほぼどんな細胞にもなることができる細胞です。このES細胞を再生医療に用いようということがありますが、動物に直接移植することはできません。多能性であるがゆえに、直接移植すると勝手に様々な細胞に分化して奇形腫という特殊な腫瘍をつくってしまうのです。ではどうするか。試験管の中で望みの細胞へ分化させてから移植する。この方法でES細胞から心筋、血液、神経細胞など発生の早い段階でできてくる細胞を作ることはわりと簡単にできます。しかし逆に発生の遅い段階でできてくる細胞は、ES細胞やiPS細胞をもとに試験管の中で作り出すのは非常に困難です。
薬が効くかどうかを必要な細胞で確かめられるようになる。今は実験動物
か、人の培養細胞(ガンの細胞)を使っている。
とくにiPS細胞に期待。遺伝子の異常のために心臓が悪い患者さんの場合、
皮膚の細胞をもらい、そこからIPS細胞を使って心臓の筋肉の細胞を作る。
すると同じ悪いところをもった心臓の細胞ができる。その細胞を使って薬が
効くかなどを調べられるようになるのでは、と考えられている。
ヒトのES細胞を使えば安全な血液を工場で作り出せるのではないか、ということが話題になったりします。そこで私は、いくらかかるのかを計算してみました。1回の献血200ccから取れる赤血球をつくるのに、今の技術では材料費だけで400~500万円かかります。
つまり、再生医学は原理的には可能でいくつかできるようになってきているけれど、それだけで治療にすぐつながるものではないのです。
![]()
新しい医療の可能性に満ちているヒトES細胞。しかし、倫理的に非常に大きな問題もあるんです。
なぜなら、ヒトES細胞は受精卵からつくられるから。今は、体外受精の際に余分になってしまった受精卵(余剰胚という)を匿名で寄付してもらって研究しているそうです。余剰胚は研究に使われなかったとしても捨てられてしまう運命にありますが、お母さんの子宮に戻せば一人の人間になる可能性があるもの。これをどう考えるか、とても難しい問題です。
医師、研究者の間でも様々な意見があるそうです。
![]()
